雄勝硯はなぜ国産の9割を占めたのか、津波で町が壊滅した産地が石皿と東京駅の屋根で生き延びるまで

宮城県石巻市雄勝町は、明治から昭和にかけて全国の硯の90%を生産していた。2011年3月の東日本大震災の津波で町は壊滅し、全世帯の8割が全壊した。ピーク時に4億円あった生産高は、約3,000万円にまで落ち込んだ。職人が避難で散り散りになるなか、産地を支えたのは、硯ではなく石の皿だった。
3行でわかる
- 雄勝硯は、墨を削る成分のバランスがよい雄勝石と職人の技で知られ、1985年に伝統的工芸品に指定された。明治から昭和には全国の硯の90%を生産した。
- 東日本大震災の津波で町は壊滅し、生産高はピーク時の4億円から約3,000万円に落ち込んだ。
- 職人が避難するなか、組合の職員が石皿を作って販売し、流された雄勝石は東京駅の屋根のスレート材に使われた。
01この工芸は何か(技術の正体)
雄勝硯は、宮城県石巻市雄勝町で採れる雄勝石を彫って作る硯で、室町時代から作られていたとされる。
雄勝石は、2億年以上前の断層から採れる黒色の硬い粘板岩である[3]。原料に含まれる石英などの、墨を削る役割の成分のバランスがよく、職人による彫りや磨きのレベルも高いことから、1985年に国の伝統的工芸品に指定された[1]。
硯は、石を硯の大きさに合わせて切り、表面を滑らかにする「砂すり」をした後、のみを肩に当てて体全体の力で彫っていく[2]。
02産地とその歴史
室町時代から作られていたとされ、江戸時代には仙台藩主の伊達政宗に献上された。明治から昭和には全国の硯の90%を生産した。
雄勝硯は室町時代から作られていたとされ、江戸時代には仙台藩主の伊達政宗に硯が献上された。明治から昭和の時代には、全国の硯の90%を生産していた[2]。
時代とともに硯の需要が減り、震災の前後には食器としての生産が主軸になっていった[2]。
03技術を、生活の言葉で
2011年の津波で町は壊滅し、生産高はピーク時の4億円から約3,000万円にまで落ち込んだ。
復興庁の事例集(2013年)[1]
震災後は津波によって町が壊滅し、硯産業の従事者の多くも被災した。当時、硯の生産に取り組んでいたのは組合員の従事者1人と組合員以外の個人1人で、ピーク時に4億円だった生産高も3,000万円程度にまで落ち込んだ。生産再開に必要な機材や道具は、グループ補助金や経済産業省の予算を活用し、総額約5,000万円をかけて修理・再生した。
補足: 雄勝硯の産地は、震災で技術が途絶えたわけではない。組合と関係者が、がれきから回収した商品を修復して販売し、産地の灯をつないだ。
04後継者問題とテクノロジーとの交差点
職人が避難するなか、組合の職員が石皿を作り、見習い職人として雇用された。流された石材は、東京駅の屋根の復元に使われた。
石皿と見習い職人
硯は職人の手が必要なため、職人が避難している間は、工場にあった材料を回収して石皿などの工芸品を生産・販売した。ふるさと雇用特別基金で採用した職員を、見習い職人として雇用した。日刊工業新聞によると、組合と石巻市が開発した料理用の石皿は、保温・保冷の特性も持つ。
東京駅の屋根と新しい職人
津波で流された雄勝石のスレートは、東京駅の屋根を復元するための建築資材として使われた。宮城県の広報誌によると、震災後に7〜8人いた職人は5人ほどに減ったが、2014年に組合に就職した若手が2024年4月に独立して工房を構えた。2020年には「雄勝硯伝統産業会館」が開館している。
硯という本来の製品の需要が減るなか、同じ石と技術を皿や建材に生かすことで、産地は職人と技術を守ってきた。素材の可能性を広げることが、伝統の継承を支える例といえる。
05関連する工芸
同じく災害からの復興に向き合う輪島塗や、素材の確保に悩む大館曲げわっぱと比べると、産地の課題の共通点が見えてくる。
06よくある質問
雄勝硯はどれくらいのシェアがありましたか
宮城県の広報誌によると、明治から昭和の時代には全国の硯の90%を生産していました。
東日本大震災で雄勝硯はどうなりましたか
津波で町が壊滅し、生産高はピーク時の4億円から3,000万円程度に落ち込みました。職人の多くも避難を余儀なくされました。
雄勝石は東京駅に使われているのですか
津波で流された雄勝石のスレートが回収され、東京駅の屋根を復元するための建築資材として使われました。
出典
- 復興庁. 「事例2-9 雄勝硯(すずり)生産販売協同組合の事業再開(宮城県石巻市)」(2013年). https://www.reconstruction.go.jp/topics/20130523_casebook_2-9.pdf
- 宮城県. 「災害と文化の継承」(広報誌 Vol.09). https://www.pref.miyagi.jp/documents/41740/baton-9.pdf
- 日刊工業新聞(ニュースイッチ). 「今ブームの『石皿』。硯職人なき硯メーカーを支えていた」(2017年5月26日). https://newswitch.jp/p/9154